ヌスビトト コヒツジ(抄)
 ヤワラカイ ミドリノ クサガ ハエテ イル マキバニ ヒツジガ メイメイト ナキナガラ アソンデイマシタ。
 ソコヘ オナカヲ スカシタ ヌスビトガ トオリカカリマシタ。 ハナレテ アソンデイル コヒツジヲミテ、「アノ コヒツジハ ウマソウダ」ト コッソリ ヌスンデ フトコロニ イレテ モリノ ホウヘ イキマシタ。
 モリデ コヒツジヲ コロソウト イシコロヲ フリアゲマシタ ケレド、 コヒツジハ シラズニ ヌスビトヲ ミアゲテ イルノデス。 ヌスビトハ キウニ カワイソウニ ナッテ コヒツジヲ フトコロニ イレ スイタ オナカヲ オサエテ ムラニ ヤッテキマシタ。
 ミズグルマノ ソバデ パンヲ モッタ ヒャクショウニ アッテ、「コヒツジト パント トリカエッコ シナイカ」ト イウト、「イイトモ パンヲ五ツ アゲヨウ」ト イッテ パンヲ クレマシタ。 ケレド、 ヒャクショウノ テニブラサゲラレタ コヒツジガ カワイソウニ ナッタノデ、 トリカエッコヲ ヤメテ シマイマシタ。 「コヒツジハ オレガ ソダテテ ヤロウ」ト イイナガラ イクト トップリ ヒガ クレマシタ。 コヒツジハ オチチガ ホシイト ナキマシタ。「コマッタナ。 オレニハ チチガ デナイカラ モトノ マキバヘ ツレテ イコウ」ト イッテ、 ヌスビトハ ペコペコノ オナカヲ オサエナガラ マタ モトキタ ミチヲ カエッテ イキマシタ。

 昭和8年10月の作品です。
 東京外語に入学し、東京へ出た南吉は、小説を書き文学修行とした一方、幼年童話を集中的に作り、中学生のころの創作活動を広げていきました。人は情況によって変わっていく、善意や愛情に目覚めていくという、南吉らしい作品になっています。
後に巽聖歌が精文館あら依頼された幼年童話集を南吉にまわして書かせ、南吉は50編ほど作ったのですが、まだ無名の新人との理由で出版のはこびにならなかったといいます。
 この作品は南吉の没後「ひろったらっぱ」の中の一作品として、昭和25年、羽田書店から出版されました。