デンデンムシノ カナシミ

 イッピキノ デンデンムシガ アリマシタ。 アル ヒ ソノ デンデンムシハ タイヘンナ コトニキガ ツキマシタ。
「ワタシノ セナカノ カラノ ナカニハ カナシミガ イッパイ ツマッテイルノデハ ナイカ」

 コノ カナシミハ ドウ シタラヨイデショウ。 デンデンムシハ オトモダチノ デンデンムシノ トコロニ ヤッテ イキマシタ。 
「ワタシハ ナント イウ フシアワセナ モノデショウ。 ワタシノ セナカノ カラノナカニハ カナシミガ イッパイ ツマッテ イルノデス」
ト ハジメノ デンデンムシガ ハナシマシタ。 スルト オトモダチノデンデンムシハイイマシタ。
「アナタバカリデハ アリマセン。 ワタシノ セナカニモ カナシミハイッパイデス。」

 ソレジャ シカタナイト オモッテ ハジメノ デンデンムシハ、 ベツノ オトモダチノ トコロヘ イキマシタ。 スルト ソノ オトモダチモ イイマシタ。
「アナタバカリジャ アリマセン。 ワタシノ セナカニモ カナシミハイッパイデス。」

 ソコデ、 ハジメノ デンデンムシハ マタ ベツノ オトモダチノ トコロヘ イキマシタ。 ドノ トモダチモ オナジコトヲ イウノデアリマシタ。「カナシミハ ダレデモモッテ イルノダ。 ワタシバカリデハナイノダ。ワタシハ ワタシノ カナシミヲ コラエテ イカナキャ ナラナイ」

 ソシテ、コノ デンデンムシハ モウ、 ナゲクノヲ ヤメタノデ アリマス。

作品紹介
 昭和10年5月、南吉、東京外語四年生の時の作品である。南吉は東京の時代約4年半に、47編の幼年童話を作っている。このうち22編が10年5月に作られている。南吉はなぜか5月の創作が多い。
 「悲しみ」は南吉の生涯を通したテーマである。中学時代はこれを自分は不幸だ、寂しい、悲しいと叫びを描写したような作品を作っている。本作品には「カナシミハ ダレデモモッテ イルノダ」 と書き、これに堪えるという心が描かれている。大人の心である。やがて南吉は、己の内にある子供の目を通した作品を書いていくようになる。